タイミングチェーンのテンショナーは、動弁系のチェーンを張っておく 小さな油圧シリンダーです。ちゃんと働いているうちはチェーンは静かに 正確に回りますが、弱ってくると音が出始め、オーナーはそれを 「エンジンの打音」だと思って最悪の事態を覚悟しがちです。 実のところテンショナーは、チェーン駆動が鳴る原因としていちばん よくあるもののひとつで、しかも比較的安く済みます。 症状は覚えておく価値があります。

仕組みと、オイル頼みである理由

テンショナーの中にはプランジャーが入っていて、エンジンオイルの 圧力で押し出され、シューを介してチェーンを押します。チェックバルブが オイルを閉じ込め、多くの設計にはエンジンを止めたときプランジャーが 完全に戻らないようにするラチェット機構も付いています。

ここから弱点が二つ出てきます。ひとつはオイルの質と量です。 汚れたオイルはプランジャーとバルブを削り、量が足りなければ テンショナーは支えを失います。もうひとつは駐車です。一晩置くと 本体からオイルが少し抜け、始動直後の数秒はスプリングとラチェットだけが 張りを担います。新品ならそれで足りますが、摩耗品では足りません。

主なサイン — 冷間始動の最初の数秒の音

典型的なのは、冷間始動の直後に出て1〜5秒で消える金属的な ガラガラ、カタカタ、カチカチです。プランジャーの圧力が立つまで、 たるんだチェーンがガイドを叩いている音です。エンジンによっては 1〜2秒なら設計上の癖ですが、5秒以上が毎回の始動で出て、 だんだん長くなるならテンショナーの摩耗です。

近い音と区別することが大事です。冷間時の甲高いキュルキュルは ファンベルトです。冷間時の打音全般は症状ページの 冷間時のエンジンの打音に、 聞き方は 音でタイミングチェーンの張りを確かめるにあります。

そのほかのサイン

  • アイドリングでのシャラシャラとカチカチ。 張りの足りない チェーンは暖まったエンジンでも暴れてガイドを削ります。 はっきり重い段階で、音の特徴は別記事にまとめてあります。
  • 空ぶかしやアクセルを戻したときの金属的な打音。 負荷が変わると チェーンのたるみが移動し、たるんだ側がシューを叩きます。
  • カムタイミングのエラーコード。 ECUがクランクとカムのずれを 検知し(P0016、P0017など)、チェックランプが点きます。 アイドリングの不安定さや出力低下が続くこともあります。 同じコードはカムシャフトポジションアクチュエーターの不調でも出ます。
  • 油圧に連動する音。 エンジンが熱いときのアイドリング(油圧が いちばん低い状態)で強くなり、回転を上げると消える。 機械的な故障ではなく油圧系であることのサインです。

異音が常時出ていて温度と無関係なら、原因の全体像は症状ページの エンジンからの打音にあります。

段階 — 設計上の癖から緊急事態まで

段階聞こえる音やるべきこと
設計上の正常冷間で1〜2秒のカチカチ、悪化なしオイルを見ておく
初期摩耗毎回の冷間始動で3〜5秒のガラガラ次の点検時に診断
進行アイドリングでシャラシャラ、空ぶかしで打音数週間のうちにチェーンの伸びを測定
危険常時ガラガラ、タイミングのコード、出力低下すぐ工場へ。歯飛びの危険

修理をどう決めるか

摩耗したテンショナーの怖さは音ではなく、チェーンの歯飛びを 止められなくなることです。1歯飛べばバルブタイミングが崩れ、 最近のエンジンではたいていバルブがピストンに当たり、 ヘッドを降ろす修理になります。そのシナリオはエンジン別に 別記事でまとめました。それに比べれば、テンショナー交換は 小さな作業です。

作業の中身を決める要素が二つあります。ひとつは測定です。 チェーンの伸びを実際に測ったのかどうか。テンショナーの伸び量、 ラチェットの位置、診断機で見るカムタイミングのずれ。 勘ではなく数字です。伸びたチェーンに新品のテンショナーを入れても、 稼げるのは数年ではなく数か月です。もうひとつはオイルです。 抜いた古いオイルが真っ黒で交換時期を過ぎていたなら、 摩耗の原因はまだエンジンの中にあり、新品のテンショナーも 同じ摩耗粉に出会うことになります。

距離が伸びた車では一式で交換します。チェーン、テンショナー、 ガイド、スプロケット。工賃が共通ですし、摩耗したガイドは 新品のチェーンをあっという間にだめにするからです。

工場に問題を伝えるいちばん簡単な方法は、音を持っていくことです。 冷間始動をStukアプリで録音してください。典型的な故障音と 突き合わせ、あなたの回答も踏まえて、どれくらい急いで整備士に 見せるべきかを判定します。