パッド交換は整備のなかでも単純な作業のひとつです。だからこそ、工場を出た とたんに新しい音が出ると余計に気になります。信号待ちでのキーッという音、 惰性で走っているときのシャリシャリ音、初日だけ少し伸びる制動距離。昨日ま で車を止めていた摩耗パッドよりも、こうした音のほうが心配されがちです。多 くは当たりが付く過程の音で自然に消えます。残りは組み付けで見落としがあっ たという合図で、この二つを聞き分けられると役に立ちます。

新品パッドが最初の数百kmで通る過程

ブレーキパッドは金属同士で直接こすれて効くのではなく、薄い移着膜を介して 働きます。摩擦材の粒子がローター側に移り、そこに均一な膜をつくるのです。 その膜ができるまで接触は不均一で、だから振動が出て、音が鳴り、ペダルの感 触も少し変わります。

もうひとつは形の問題です。新品パッドは平らですが、3〜4万km走ったローター には固有の面の起伏があります。最初の数百kmでパッドがローターの形に馴染み、 接触面積が増え、音は次第に消えます。街乗りで200〜500kmが標準的な期間で、 最初の数日は高速域からの急制動を避けてください。

正常と異常の早見表

交換後の音判断
最初の2〜3週間、信号待ちでたまに鳴くキーッ音正常、当たり付きの過程
惰性走行中の軽いシャリシャリ音正常、設計どおりパッドが触れている
軽く踏むと鳴き、強く踏むと消えるほぼ正常。スライドピンのグリスで改善
500〜700km走っても鳴き続ける異常:シム、グリス、パッドの材質
初日からの金属的なゴリゴリ音異常、すぐ組み付けを点検
踏み始めと戻しでのコツンという打音異常:パッドがガイド内で動いている

金属量の多い硬い材質のパッドは別扱いです。耐久性が高く熱にも強い一方、性 質上どうしても柔らかいものより音が出ます。この手のパッドは、まったく健全 なまま寿命いっぱい鳴き続けることがあります。これは修理ではなく、次回交換 時の部品選びの問題です。摩耗段階ごとの音の変化は ブレーキパッドの摩耗を音で見分ける に、低速での鳴きは 低速でのブレーキ鳴き にまとめています。

組み付けで見落とされやすい点

項目は少なく、一か月経っても音が消えないならどれも確認する価値があります。

  1. キャリパースライドピンのグリス。 これがないとパッドが斜めに当たり、 偏摩耗して、機構が鳴いたり引きずったりします。
  2. 鳴き止めシム。 パッドの振動を抑える薄い金属板です。古いセットから 移し替え忘れたり、傾いて付いていたりします。
  3. 座面の清掃。 キャリパーブラケットの錆や焼き付いたダストがあると、 パッドが自由に動けません。
  4. ローターの状態。 外周の深い段付きがあると新品パッドがきちんと座り ません。同じ分かれ道は ブレーキの鳴き:パッドかローターか で扱っています。
  5. 締め付けトルクとブラケットの座り。 スライドピンボルトの締めすぎ・ 締め不足はクランプの当たり方を変えます。

一晩外に停めた翌朝だけ出て、数回止まるうちに消える鳴きは組み付けとは無関 係です。これはローター表面の被膜で、 放置後のブレーキ鳴き雨のあとのブレーキ鳴き で別に扱っています。ブレーキ音全般の一覧は症状ページ ブレーキの鳴き にあります。

判断の進め方

現実的な手順はこうです。まず穏やかな運転で300〜500km走り、それからもう一 度音を評価します。音が良くなっていれば当たりが付くのを待ちます。同じか悪 化していれば、パッドを付けた工場に戻ります。作業保証での分解・再組み付け はたいてい無料です。だからこそ、出費の前に変化を見るテストを置くのです。

整備士がいつも口にするとは限らない点が二つあります。ひとつ、シムとスプリ ングからなる取り付けキットは消耗品で、パッドの振動を止めている当事者です。 これが省かれていれば、それだけで消えない鳴きの説明が付きます。もうひとつ、 当たり付けは「待つこと」ではなく手順です。時速60〜80kmからの中程度の制動 を数十回、急制動はせず、ブレーキが熱いまま停車でペダルを踏み続けない。こ れが均一な移着膜をつくります。

様子見が許されない音がひとつあります。最初の数kmから出る硬い金属的なゴリ ゴリ音です。パッドの取り付けが違っているか、機構に異物が入った合図で、こ の場合は乗って慣らすのではなく、すぐ工場へ戻ります。 ブレーキが鳴っているときに運転してよいか も参考にしてください。

音が正常の範囲かどうかを勘に頼らないために、交換翌日と二週間後にStukアプ リで録音してください。二つの録音を比べると、どんな印象よりもはっきり傾向 が見えます。当たり付きの音はその間に目に見えて弱まり、故障はそのままか大 きくなります。