エンジンルームの洗浄は無害な作業に見えます。それなのに、その直後から始動 時に鳴き出したり、アイドリングで失火したり、妙なカラカラ音で応えたりする 車が少なくありません。不思議なことは何もありません。設計者が想定していな い場所に水が入り、いくつかの部品の挙動が同時に変わるだけです。こうした音 の多くは自然に消えますが、一部は実際の損傷を意味します。
そもそもなぜ水で変わるのか
エンジンルームは密閉されていません。コネクター、プラグホール、エアクリー ナーボックス、補機のプーリー。どれも飛沫や雨は想定していますが、狙った水 流は想定外です。高圧洗浄機はシールを越えて水を押し込み、洗剤はさらに工場 出荷時のグリスを流し、摩擦が必要な場所の摩擦を減らします。
そこから典型的な三つの筋書きが生まれます。ひとつ、プーリー溝の水。ファン ベルトが食いつきを失い、滑って鳴きます。ふたつ、プラグホールとイグニッシ ョンコイルの湿気。火花が逃げ、失火して車体が震えます。みっつ、センサーコ ネクターの水。値がずれ、制御が誤ったデータで動き、アイドリングがふらつき ます。
自然に消える音
| 音 | 原因 | 消えるまで |
|---|---|---|
| 始動時の鳴き、暖まると弱まる | ベルトとプーリーの水 | 1〜2回の走行 |
| 失火、アイドリングの震え | コイルやプラグホールの湿気 | 1〜3日 |
| シューという音、マニホールドからの湯気 | 熱い金属上で水が蒸発 | すぐ |
| 最初の数分だけアイドリングがふらつく | センサーコネクターの湿気 | 1〜2日 |
| 一週間以上続く鳴き | ベルトの摩耗、テンショナー | 消えない |
| オルタネーター付近のうなり、こすれ音 | ベアリングのグリスが流された | 消えない |
見分け方は単純です。水が原因の音は走るたびに弱まります。二日目が初日より 静かで、三日目にはほとんど気にならないなら、乾いている途中で手を入れる必 要はありません。音が変わらないか大きくなるなら、水は元からあった問題を表 に出しただけです。洗浄前からその部品は残りわずかなグリスか、乾いた摩擦で 回っていたということです。
最初の数日にやること
まず、その日の夕方にすぐ工場へ駆け込まないこと。走って冷ますサイクルを二、 三回、できれば速度を出して長めに走ってください。ボンネット下の暖かい空気 は、停めておくより早く水気を飛ばします。次にボンネットを開け、コネクター とプラグホールを目視します。プラグホールの水はエアで飛ばすか、乾いた布で 吸い取れます。そして毎朝、冷間でエンジンの音を聞いてください。水絡みの音 は最初の始動でいちばんはっきり出ます。
三日経っても鳴きが残るなら、洗浄ではなくベルトとテンショナーの問題です。 オルタネーターのベルト鳴きの原因 を参照してください。キーを回した瞬間の乾いたガラガラ音は 始動時のガラガラ音 の記述と、最初の数秒の金属的なゴリゴリ音は エンジン始動時のゴリゴリ音 と比べてみてください。ベルト鳴きの音の特徴と確認方法は症状ページ ベルトの鳴き にあります。
修理をどう決めるか
水が既存の摩耗を早めただけなら、かかる範囲は小さくて済みます。ベルト、ア イドラー、テンショナーです。基準は同じ、変化を見るテストです。寿命が尽き かけていた部品は、すべて乾いたあとも音を出し続けます。そこにこそ交換の費 用を使う価値があります。静かになった部品には何も要りません。
知っておくとよいことが二つ。乾いたあとも失火が続くなら、当てずっぽうでコ イルを替える前に故障コードを読んでもらってください。失火コードは気筒を特 定しますし、腐食した端子は買うのではなく清掃するものです。そしてベアリン グのグリスを流されたオルタネーターは元に戻りません。うなりは残り続け、早 く捕まえればユニット丸ごとではなくベアリング交換で済みます。
今後のための助言をひとつ。売却前や修理後にエンジンを洗うなら、オルタネー ター、ヒューズボックス、吸気口をフィルムで覆い、低圧の手洗いでお願いして ください。ここで挙げた筋書きの大半はそれで避けられます。
いちばん難しいのは、音が本当に弱まっているかの判断です。人の耳は音量を覚 えるのが苦手ですが、直接比べれば違いはよくわかります。初日の朝の始動を Stukアプリで録音し、三日目にもう一度録ってください。アプリが録音とあなた の回答を突き合わせ、正常へ戻りつつあるのか、診断を予約する頃合いなのかを 示します。