よくある話です。一週間ずっとコトコト鳴っていたのに、工場に着いたとたん 黙ってしまう。整備士は肩をすくめ、帰り道の最初の交差点でまた鳴りだす。 スマホの録音はこれを解決しますが、きちんと録れていればの話です。下手な 録音は無いよりたちが悪く、診断を見当違いの方向へ引っ張ります。実際に 使える音の録り方をまとめます。

録る前の準備

音質の半分は、録音ボタンを押す前に決まります。

  • 音楽、エアコン、ブロワーを止めます。ヒーターのファンは録音の天敵で、 その風切り音がほとんどの音を覆い隠します。
  • 車内で録るなら窓を閉め、逆に特定のホイールからの音を狙うなら、その側 の窓を開けます。
  • スマホのケースがマイクをふさぐなら外し、マイクの網目を拭きます。詰 まった埃は高い音を殺します。
  • 静かな場所を選びます。空いた駐車場、地下駐車場、週末の工場地帯など。 街の騒音は小さな音を食べてしまいます。
  • 走行中にしか出ない音なら、同乗者に頼みます。運転しながらの録音は理由 を説明するまでもなく良くありません。

スマホをどこに構えるか

音の出どころマイクを向ける先
エンジン、補機類エンジンルーム内、部品から20〜30cm、ベルトからは離す
サスペンション、ホイール該当する側の開けた窓から、または停車してホイールハウス内へ
ブレーキ低速で制動しながら、窓から出してホイールの高さで
排気系車の後方、テールパイプから1mほど、直近には寄せない
室内のビビリ疑わしい箇所のそば、20〜30cm

スマホはダッシュボードに置くより手で持つほうが確実です。ボディの振動が そのままマイクに伝わり、偽のうなりが乗ってしまうためです。ボンネットを 開けて録るときは安全第一で、手もスマホもベルト、ファン、熱いエキマニ から十分に離してください。

状況ごとに何を録るか

一つの状況につき一ファイル、これが基本です。音は音そのものではなく、 条件にどう反応するかで診断されます。

  1. 冷間始動。 キーをひねる前から録りはじめ、始動後30秒は続けます。 エンジンについて最も情報量の多い一本です。
  2. 暖機後のアイドリング。 安定した状態で二十〜三十秒。
  3. 回転をゆっくり上げて下げる。 回転数に対して何が変わるかが見えます。
  4. 段差の通過。 20〜30km/hで継ぎ目やハンプを越え、窓は開けたまま。 このとき出る音の一覧は症状ページの 段差でのコトコト音にまとめてあります。
  5. 加速と惰性走行。 同じ区間を駆動をかけた状態とニュートラルで。この 差は、どんな言葉の説明より整備士に伝わります。

音声メモと、やってはいけないこと

それぞれの録音の頭で、短く声を入れてください。どの状況か、速度は、ギア は、音はどのあたりから聞こえるか。「冷間始動、外気マイナス五度、二晩 放置」——この十秒の発話が、整備士の十分の質問を省きます。音が出た瞬間 には「今の」と言い添えてください。あとから説明するより正確に位置を示せ ます。

やってはいけないこと。音の部分だけ切り出す(前後の文脈に情報がありま す)、通話アプリのノイズ抑制を効かせたまま録る、元ファイルを送れるのに 圧縮の強いメッセンジャーで送る、音楽やナレーションを重ねる。そして一度 に全部を捕まえようとしないこと。長くて濁った一本より、状況別に分けた きれいな短い三本のほうが使えます。

サスペンションについて一言。特定の段差でしか鳴らないなら、漫然と走るの ではなく、その区間を狙って録ってください。

設定をいじるのが面倒なら、録音はStukアプリでも行えます。録るべき状況を 順に案内し、条件を質問し、照合したうえで考えられる原因を確率つきで表示 します。録音の付いたカードはそのまま整備士に見せられるので、話が本題か ら始まります。