タイミングチェーンはクランクシャフトとカムシャフトをつなぎ、バルブの開閉 時期を決めています。時間とともにリンクのピンが摩耗してチェーンは長くなり、 テンショナーがたるみを吸収しきれなくなります。すると、どの運転状態で聞け ばいいかさえ分かっていれば、ほかの音とはまず取り違えない音が出てきます。 以下にその音の姿と、エンジンルームの他の音との切り分け方をまとめます。
音の姿
伸びたチェーンは、エンジンの前側(まれに後ろ側)、タイミングカバーの奥か ら金属どうしが擦れる乾いたシャラシャラ音、ガラガラ音として聞こえます。 決め手になる特徴は次のとおりです。
- 冷間始動。 かけてからの2〜5秒がいちばん大きく、テンショナーにオイル が満ちると急に静かになります。
- アクセルオフ。 2500〜3000回転からアクセルを戻すと、回転が落ちる間に 短くガラガラと波が出ます。
- 負荷ではなく回転に連動。 停車したままニュートラルで空ぶかしすると聞 こえます。
- 場所が一定。 いつも同じ一点、ブロックの真ん中ではなくタイミング駆動 側の端から出ます。
摩耗が進むと、暖機しても音が消えなくなり、常時鳴りっぱなしの背景音になり ます。これが分かれ目です。この段階のチェーンは、スプロケットで歯飛びを起 こす一歩手前です。
ほかのエンジン異音との見分け
| 発生源 | 聞こえる場所 | 暖機と回転への反応 |
|---|---|---|
| タイミングチェーン | タイミングカバー、エンジンの端 | 冷間時に大きく、アクセルオフで波が出る |
| ラッシュアジャスター | シリンダーヘッド上部 | 速いカチカチ音、暖機後に消えることが多い |
| コンロッドメタル | ブロック中央 | 鈍い打音、負荷で大きくなる |
| クランクメタル | ブロック下部 | 重いうなり混じりの打音、暖まると悪化 |
| 補機類、アイドラー | ファンベルトに沿って | 鳴きやサラサラ音、ベルトに連動 |
この表の下側の行が、間違えたときの代償の大きさを示しています。チェーンは 計画的な整備、メタルはオーバーホールです。冷えたエンジンでだけ出る音の一 覧は症状ページ 冷間時のエンジンノッキング にあります。
工場で確認すること
チェーンの診断は、耳で聞くだけでは終わりません。
- 聴診器で聞く。 タイミングカバー上で音量が最大になれば、まず一つ目 の裏づけです。
- コードとデータを読む。 カム角とクランク角の相関異常やカムセンサー のコードは、間接的ではありますが重みのある材料です。
- テンショナーを見る。 ラチェットが何段出ているかで、すでにどれだけ ストロークを使ったかが分かります。
- 合いマーク。 エンジンによっては、スプロケットのマークで、全部ばら さなくても位相のずれが見えます。
補足として、エンジン回転ではなく車速に連動するうなりは、チェーンとは無関 係で足回りの話です。その切り分けは うなり音:ハブベアリングかタイヤか で扱っています。
修理の決め方
先延ばしで何を賭けているのかを理解しておく価値があります。伸びたチェーン はまず音を出すだけですが、やがて歯飛びを起こします。位相がずれ、パワーが 落ち、故障コードが出て、始動も悪くなります。多くのエンジンでは歯飛びや破 断がバルブとピストンの接触で終わり、シリンダーヘッドの修理が請求書に加わ ります。計画交換と緊急修理の差は、見積書の一行と何行分もの差です。
キットをケチる意味はありません。新品のチェーンだけ入れて摩耗したガイドと テンショナーを残せば、同じ作業をもう一度やることがほぼ確定します。ウォー ターポンプが同じカバーの奥にあるエンジンなら、同じ理由でキットに含めるべ きです。そこまで開ける手間の代金は、すでに払っているのですから。
現場でよく言われることをもう一つ。チェーンの摩耗を早めるのは、走行距離そ のものより、油圧不足と交換間隔の延ばしすぎです。
ガラガラ音が短くて、本当に聞こえているのか自信が持てないときは、Stukアプ リで冷間始動を録音してみてください。キーをひねってからの最初の5秒で十分で す。録音とあなたの回答を照合し、考えられる原因を確率つきで示すので、「何 かが鳴っている」ではなく、仮説を持って工場に行けます。