駆動をかけながらハンドルを切ったときのカタカタ音は、前輪駆動車に長く 乗っている方ならほぼ全員が耳にしたことのある音です。たいていの質問は 「これは何か」ではなく「あとどれくらい走れるか」になります。正直に 答えると、しばらくは走れます。ただしその余裕は年単位ではなく、 ジョイントがどの段階にいるかで変わります。ここでは段階を自分で判断 する方法と、これを超えたら走ってはいけないという線を説明します。
ジョイントの中で起きていること
ドライブシャフトのジョイント、いわゆる等速ジョイントは、角度が変わり 続けるなかでミッションからホイールへ駆動力を伝えています。中には ケージに収まったボールが入っていて、専用のグリスで満たされ、ゴムの ブーツで密閉されています。ブーツが健全なうちは、この部品はとても 長持ちします。グリスは外に出ず、砂や水は中に入りません。
ジョイントの摩耗は、ほぼすべてブーツの割れから始まります。遠心力が 少しずつグリスを外へ飛ばし、代わりに研磨剤のような砂が入り、ケージの 軌道が摩耗してガタが出ます。そして大きな舵角で負荷がかかったとき、 ボールが摩耗した軌道を飛び越えるようになる。これがあのカタカタ音です。
三つの段階と、それぞれに残された時間
| 段階 | 兆候 | 残された時間 |
|---|---|---|
| 初期 | 駆動をかけて全開に切ったときだけ、かすかに鳴る | 数週間。計画的に修理 |
| 中期 | 深く曲がれば必ず鳴り、バックでも鳴り始める | 数日〜数週間。工場を予約 |
| 末期 | 直進でのコツン音、振動、発進時のギクシャク | 工場へ行く以外は走らない |
段階の差は音の大きさそのものではなく、どういう場面で音が出るかです。 大きな舵角で負荷をかけたときだけ鳴っているうちは、ジョイントは直進 走行にはまだ耐えています。直進でも音が出て振動が加わったら、摩耗は 近い将来の破損を意味する領域に入っています。ちなみに内側のジョイントは 鳴り方が違って、カーブではなく加速時にコツンと出ます。
修理までのあいだ、どう走るか
自走すると決めたなら、摩耗したジョイントの負担を減らすのが理にかなって います。
- 駆動をかけたまま全開まで切らない。 この組み合わせがケージに いちばん負担をかけます。駐車場では、細かく切り返して動かしてください。
- やさしく発進する。 急発進はドライブシャフト全体に衝撃荷重を かけます。
- 高速道路は避ける。 高い速度では摩耗したジョイントの温度が上がり、 壊れるのが早くなります。
- タイヤを空転させない。 雪やぬかるみでハンドルを切ったまま空転 させるのは、ジョイントにとどめを刺すいちばん早い方法です。
出どころが正しく特定できているかも確かめる価値があります。カーブでの カタカタ音はジョイントだけのものではありません。ストラットのアッパー マウントやステアリング系の部品も似た音を出します。この種の音の一覧と 切り分け方は、症状ページの ハンドルを切るとカタカタ音に まとめてあります。確認のためには、駐車場で全開に切ったままゆっくり 円を描いて走ってみるのが分かりやすい方法です。
修理はどう決めるか
一つめの分かれ道は、ジョイントだけか、ドライブシャフト一式かです。 スプラインとシャフトが健全なら、ジョイント単体で足ります。走行距離が 伸びていて、シャフト自体にも振れが出ているなら、工場はアッセンブリー での交換を勧めることが多いです。分解の手間は同じで、半年後にもう一度 入庫せずに済むからです。判断はシャフトを降ろして点検してから下すので、 最終的な内容は作業前ではなく作業中に決まります。
二つめは、ブーツだけで済むかどうか。まだ音が出ていない段階なら、 ジョイントを洗って新しいグリスを詰め、ブーツを新品にするだけで済み、 作業もずっと軽くなります。だからこそ、点検のたびにブーツを見ておく 価値があるのです。いったんカタカタ音が出てからでは、新しいブーツは すでに摩耗したジョイントを密閉するだけで、音はまた戻ってきます。
三つめは、はっきり聞いておきたい質問です。どのグリスを入れるのか。 等速ジョイントにはモリブデン系の専用グリスを使い、違うものを入れると せっかくの修理の寿命が縮みます。
音がかすかで、初期なのか中期なのか判断しづらいときは、全開に切って ゆっくり円を描くところをStukアプリで録音してみてください。アプリが 録音といくつかの質問への回答を突き合わせ、どれくらい待てるのか、 レッカーを手配すべきかを示します。