よくある話です。ひとりで走っているときは通い慣れた道を静かに流せるのに、 後席に三人乗せたりトランクに荷物を積んだりすると、段差のたびに「ドン」と 突き上げるような音が出る。音はエンジンとは無関係で、速度を変えても 変わりません。これはかなり絞り込みやすい手がかりで、原因はほぼ確実に サスペンション、しかも荷重によってストロークの別の領域を使い始めた サスペンションです。足回りで何が起きているのか、どこから見ればいいのかを 順に見ていきます。

荷重がかかると何が変わるのか

重さでスプリングが縮み、車高が下がり、サスペンションの動作範囲が ずれます。サスペンションには上方向の「余裕」があります。ストラットが バンプストッパー、つまりゴムやウレタンのストローク規制部品に当たるまでの 距離です。空車ならこの余裕は街中のたいていの段差を吸収できます。 ところが乗員四人プラス荷物になると余裕が縮み、同じ段差でサスペンションが ストッパーまで到達してしまう。あの乾いた突き上げ音の正体です。

もうひとつは、ガタの出方が変わることです。摩耗したブッシュや痩せた 軸受けは、空車では中途半端な位置で収まっていますが、荷重がかかると 押し切られてはっきり打音を出します。つまり荷物が不具合を作るのではなく、 もともとあった不具合をあぶり出しているわけです。だからこそこの打音は 「なるべく丁寧に走ればいい」で済ませる話ではなく、むしろ診断に使える 良い材料になります。

荷重時に鳴りやすい部品

発生源出方の特徴
バンプストッパーの劣化中くらいの段差で鋭く乾いた突き上げ。荷重時のみ
スプリングのへたり後ろの車高が目に見えて低く、うねりのたびに打音
スタビブッシュとスタビリンク細かい凹凸でカタカタ。空車でも聞こえることが多い
アームやトーションビームのブッシュ鈍い突き上げ。わだちで車がふらつく
ショックアブソーバー打音に加えて、段差の後に車体が揺れ続ける
トランクの積荷ジャッキ、スペアタイヤ、工具。いちばん多い勘違い

最後の行を飛ばさないでください。整備工場に行く前に、トランクの中身を 全部出してスペアタイヤの固定を確認する。これはタダでできる確認で、 これだけで解決する例が驚くほど多いのです。

自分でできる確認

まずは車の沈み方を見ます。フェンダーの縁からホイール中心までの距離を、 空車時と荷重時、左右それぞれで測ってみてください。左右で明らかな差が あればスプリングのへたりが疑われます。次にバウンステスト。ボディの 片隅を押し下げて手を離す。健全なサスペンションはほぼ一往復で止まり、 劣化したものは揺れ続けます。やり方は バウンステストでショックアブソーバーを点検する にまとめています。

段差の種類で比べるのも有効です。細かい凹凸や継ぎ目ではスタビ関係が、 深い穴ではバンプストッパーやブッシュが正体を現しやすい。スタビリンクの 確認は スタビリンクの打音を点検する が参考になります。車内と車外で聞こえ方が違う場合は 窓を開けたときだけ聞こえる打音 の手順が使えます。似た音の一覧は症状ページ 段差での打音 にまとめてあります。

修理をどう決めるか

この症状でいちばん多い結末は、費用の軽い側です。バンプストッパー、 ブッシュ、締結部品。高くつくのは、一年放置してアームのブッシュが崩壊し、 ショックアブソーバーまで道連れになった場合です。つまり判断は結局 ひとつの問いに集約されます。ストロークが尽きたのは消耗品が崩れたから なのか、それともスプリングがへたってショックアブソーバーが動きを 抑えられなくなったからなのか。

これを切り分ける確認はふたつです。ひとつは車高の実測。左右、前後で測り、 整備要領書の基準値と比べます。へたったスプリングはミリではなく センチ単位でずれるので、印象ではなく数字で出ます。もうひとつは ホイールを外した状態でのバンプストッパーとブーツの確認。崩れた ストッパーは見ればすぐわかり、それだけで突き上げ音の説明がつきます。

作業前に知っておくとよいことが三つあります。スプリングと ショックアブソーバーは左右同時交換が原則です。片側だけだと ブレーキ時や段差でクルマが片流れします。バンプストッパーとブーツは 安い部品ですが、ストラットをばらさないと手が届きません。だから ショックアブソーバーと同時に交換します。後から出直すと同じ工賃を 二度払うことになります。そしてブッシュの本締めは、必ず車重を タイヤにかけた状態で行います。足を垂らしたまま締めると、ゴムが ねじれたまま固定され、数か月で裂けます。

工場に行く前に何が鳴っているのか把握したいなら、Stukアプリで録音して みてください。同じ区間を空車と荷重時の二回走り、それぞれ録音します。 二つの録音の差そのものが手がかりになりますし、アプリは録音と あなたの回答を突き合わせて、考えられる原因を確率つきで示します。