アイドリングとは、エンジンが負荷なしで最低回転、ふつうは650〜900回転 で回っている状態のことです。よその音がいちばんよく聞こえるのがここ です。タイヤの音も駆動系の音もなく、油圧はいちばん低いので、摩耗した 摩擦面が真っ先に口を開きます。いい知らせもあります。厳密にアイドリング だけの打音が破局を意味することは、めったにありません。主な原因と、 何も分解せずに候補を絞る方法をまとめます。
なぜアイドリングで打音が出るのか
アイドリングには二つの特徴があります。ひとつめは油圧がいちばん低い こと。オイルポンプはエンジンで回されているので、700回転では3,000回転 のときよりずっと少ししか送れません。油圧に頼るもの、つまりラッシュ アジャスターや油圧チェーンテンショナーは、アイドリングでいちばん 条件の悪い状態で働いています。
ふたつめはすき間に荷重がかかっていないこと。負荷がかかっていれば 燃焼の圧力が部品どうしを押し付けますが、アイドリングでは摩耗の分だけ 浮いてコツコツ当たります。同じエンジンが高速道路では静かで、渋滞では カチカチ鳴るのはそのためです。
逆に打音が加速で出てきたり大きくなったりするなら、それは別の筋書きで、 原因の一覧も違ってきます。
主な原因と、その聞こえ方
| アイドリング時の音 | 考えられる出どころ | 緊急度 |
|---|---|---|
| 上から均一なカチカチ | ラッシュアジャスター、バルブクリアランス | 点検の予定に |
| 前側からザラザラ、ゴロゴロ、ガラガラ | チェーン、テンショナー、ガイド | 数週間のうちに診断 |
| 周期的な打音、エアコンで変わる | コンプレッサークラッチ、アイドラー、ウォーターポンプ | 点検の予定に |
| Dレンジで車体に伝わる振動と打音 | エンジンマウント | 点検の予定に |
| ブロックの奥からの鈍く低い打音 | クランクシャフトのメタル | すぐ工場へ |
ラッシュアジャスターは、油圧を使って熱によるすき間を自動で詰める 動弁系の部品です。摩耗したときや状態の悪いオイルでは、クランクの半分 の周期でカチカチ鳴ります。「アイドリングで何かがカチカチ鳴る」への いちばん多い答えがこれです。症状ページは エンジンのカチカチ音。
タイミングチェーンは、クランクからカムシャフトを回す駆動系です。 アイドリングではザラザラした音や金属的なゴロゴロを出します。圧力が 低いと、油圧テンショナーは伸びたチェーンのたるみを取りきれず、 チェーンがガイドに触れるからです。確かめ方と猶予は タイミングチェーンの張りを音で確かめると 伸びたタイミングチェーンのまま走れるかに あります。冷間だけ鳴るなら 冷間始動時のカムフェーザーのガラガラ音も 候補です。
補機、つまりオルタネーター、ウォーターポンプ、ベルトのアイドラー、 エアコンのコンプレッサークラッチは、エンジンの「外側」で鳴ります。 工場での定番の確認は、駆動ベルトを外して短時間だけ回すこと。音が消えれば エンジンは無関係です。 エアコンのコンプレッサークラッチが壊れるときの音と オルタネーターのデカップリングプーリーの不良のしるしを どうぞ。
エンジンマウントは、振動を抑えるゴムと金属の塊です。これが壊れると、 アイドリング、とくにオートマのDレンジで、車体越しに震えと鈍いコツコツ が伝わってきます。確かめ方は 負荷をかけてエンジンマウントを確かめるに。
故障ではないカチカチ
アイドリングのリズミカルな音が、いつも故障とはかぎりません。直噴の インジェクターはかなり大きな音でカチカチ鳴りますが、それが正常な 働きです。ソレノイドが毎分何百回も開閉しています。ディーゼルの アイドリングのガラガラした背景音も、症状ではなく構造上の性質です。 働く音と困った音を分けるのは履歴です。もとからある音は昔からそのままで 変わりませんが、故障の音は突然現れ、進んでいきます。買ったばかりの車 なら、同じ車種の健全な個体のアイドリングを聴いてみるのが役に立ち ます。たいてい違いはすぐ分かります。
自分で候補を絞る
診断する側が本当に助かる観察をいくつか。
- 回転数。 1,500〜2,000回転までゆっくり上げてみます。打音が消えた ならラッシュアジャスターかチェーンテンショナーが濃厚です(油圧が 上がったということ)。回転に合わせて速くなったなら、出どころは エンジンと一緒に回るものです。
- 暖機。 冷間で鳴るのか、熱いときか、いつもかを記録します。暖機前 だけの打音は別の話で、たいていは心配の度合いが低くなります。
- エアコン。 アイドリングでエアコンを入れたり切ったりします。 コンプレッサークラッチと同期して音が出るなら、見るのは補機です。
- オイル。 レベルゲージで量を見て、いつ、どの粘度で交換したかを 思い出してください。量の不足と期限切れのオイルは、カチカチの背後の 第一容疑者です。
- 耳で場所を絞る。 ボンネットを開けて、音が上(ヘッドカバー)から か、前(タイミング駆動系と補機)からか、ブロックの奥からかを 探ります。「上か下か」という大まかな判断だけでも、原因の一覧は 半分になります。
やってはいけないこと。「回して飛ばす」ためにレブリミットまで回すこと と、診断の前に粘度を上げる添加剤を入れることです。前者は潤滑に問題が あるときに危険で、後者は原因を消さないまま症状だけを覆い隠します。
修理はどう決めるか
ここでの結末の幅は広く、判断の基準は「軽い確認で何を外せたか」です。 まず指定どおりのオイルと新しいフィルター。それだけでアイドリングの カチカチのかなりの割合が片づくからです。次にベルトを外しての確認で 補機とエンジンを分け、機械式ゲージでの油圧測定でラッシュアジャスター とメタルを分ける。何かを開けるのはそのあとです。
整備士がいつも言うとはかぎらないことが二つ。作業の重さは、部品よりも エンジンの造りに大きく左右されます。あるエンジンならラッシュアジャス ターの交換は数時間、別のエンジンならカムシャフトを降ろして半日仕事 です。見積もりを比べる前に、自分の車がどちらなのかを聞いてください。 もうひとつ、タイミング駆動系を交換するときは、チェーンと一緒にガイド とダンパーも替えます。チェーンが実際に叩いているのはその樹脂部品で、 それを含まないキットでは音が戻ってきます。
工場を先延ばしにしてはいけないとき
アイドリングの打音がすぐの対応を求めるのは三つの場合です。音が鈍く 低く、ブロックの奥から来る(クランクのメタルの疑い)。油圧警告灯を 伴う。数日で急に大きくなった。この状況では、自走せずに積載車を 呼ぶほうが安全です。そこを惜しむと、オーバーホールに化けかねません。 それ以外なら、無理のない範囲で診断を予約し、音が変わっていくかどうかを 見ていれば十分です。エンジンの打音全体の整理は症状ページ エンジンからの打音に、猶予の考え方は エンジンから打音がするまま走れるかに あります。
工場へ行く前に何が起きているのか知りたいときは、回っているエンジンを Stukアプリで録音してください。録音といくつかの確認質問への回答を 突き合わせ、考えられる原因を緊急度つきで示します。その一覧があれば、 整備士との会話は具体的になります。