電磁クラッチは、そもそもエアコンを「切る」ことを可能にしている部品です。 コンプレッサーのプーリーはファンベルト(補機ベルト)によって常に回されて いますが、コイルに通電されてプレッシャープレートがプーリーに引き寄せられた ときだけ、コンプレッサーのシャフトとつながります。スイッチを押したときに ボンネットの中から「カチッ」と聞こえるのはそのためです。そしてここから、 診断の一番の手がかりが出てきます。そのカチッと同時に異音が出て、スイッチを 切ると消えるなら、疑う相手はかなり絞り込めます。
構造と、どこが減るのか
クラッチの要は三つです。常に回り続けるベアリング入りのプーリー、 コンプレッサー本体に固定された電磁コイル、そして通電時にプーリー側へ 引き寄せられるシャフト上のプレッシャープレートです。プレートとプーリーの あいだには、メーカーが決めたごくわずかな隙間(コンマ数ミリ)が設けられて います。
減るのはたいてい次の三つのどれかです。まずプーリーのベアリング。エンジン ルームの熱の中で、ベルトの張力を受け続けています。次にプレートとプーリーの 摩擦面。つながるたびに少しずつ減り、やがて隙間が広がって、コイルの力では プレートを引き寄せられなくなります。そしてコイル自体。断線したり、 巻線間でショートしたりします。
音の特徴
| 音 | 出るタイミング | 考えられる原因 |
|---|---|---|
| 一定のうなり・シャー音、スイッチと無関係 | 常時、回転を上げると大きくなる | クラッチプーリーのベアリング |
| つながった直後のガラガラ・ビビリ音 | エアコンONのときだけ | 摩擦面の摩耗、隙間の広がり |
| 金属のこすれ音と焦げたにおい | つながる瞬間、ベルトも鳴く | プレートがプーリー上で滑っている |
| 回転に同期した鈍い打音 | エアコンONのとき | コンプレッサー内部のかじり |
| 頻繁なカチカチ(入切の繰り返し) | 暑い日のアイドリング | ガス不足、圧力スイッチのサイクリング |
| つながる瞬間のベルト鳴き | スイッチを押した最初の数秒 | ベルトの伸び・油付着、テンショナーの弱り |
簡単な確認は一分で終わります。エアコンを切ったままエンジンをかけ、 エンジンルームの音を聞きます。次にエアコンを入れて、音を比べます。 カチッと同時に出た音ならクラッチかコンプレッサー。押す前から出ていた音なら プーリーのベアリングか、別のアイドラープーリーです。ベルト駆動系の異音の 全体像は症状ページのベルトの鳴きにまとめて あります。同じベルトにぶら下がっている補機のうち、オルタネーターと ウォーターポンプのどちらが鳴いているかは、うなり音の高さと負荷のかけ方で 切り分けていきます。
放置してはいけない理由
クラッチの異音がやっかいなのは、それ自体よりも、他の補機と同じベルトの上に 乗っているからです。プーリーのベアリングが焼き付けば、ファンベルトは切れるか 外れます。そうなるとオルタネーター、ウォーターポンプ、パワステが一度に 止まります。これは「不便」ではなく、オーバーヒートの危険を伴う路上での 立ち往生です。
もう一つのシナリオが滑りです。隙間が広がるとプレートは中途半端にしか 引き寄せられず、焼けていきます。ひどい場合は摩擦面が溶着し、クラッチが 切れなくなって、コンプレッサーが回りっぱなしになります。
このガラガラ音を、エンジン内部の音と混同しないでください。エアコンの スイッチと無関係にシリンダーブロックのあたりから出ている音は、まったく 別の話です。症状ページのエンジンの打音と 聞き比べてみてください。
修理はどう決まるか
診断の順番はたいてい決まっています。補機類を目視して音を聞く、系統の圧力を 測る、シックネスゲージでクラッチの隙間を測る、コイルの抵抗値を確認する。 コンプレッサーを丸ごと交換しなくても直る故障はあります。車種によっては クラッチがアッセンブリー単体で供給されますし、シムを一枚抜いて隙間を 調整するだけで済むこともあります。
コンプレッサー交換に同意する前に、聞いておきたいことが二つあります。 一つは、隙間が実測でいくつだったか。「見た感じ摩耗していた」ではなく数値です。 もう一つは、先にガス量と圧力を確認したかどうか。ガスが不足した系統では クラッチが入切を繰り返し、その繰り返しこそが摩擦面を焼きます。漏れを 見つけないままコンプレッサーを替えても、新品が前のものを壊したのと同じ 条件で働くことになります。
暑い日にしか出ず、工場では再現できない音なら、Stukアプリで録音して ください。まずエアコンを切った状態で、続けてスイッチを入れた直後に。 アプリは二つの録音とあなたの回答を突き合わせて、クラッチ、 アイドラープーリー、コンプレッサー本体のどれが疑わしいかを示します。