アイドラープーリーは、エンジンルームが唸り出すまで誰も気に留めない小さな 部品です。役目は単純で、オルタネーター、エアコン、ウォーターポンプの プーリーを回るように補機ベルトの経路を作ることです。中身はごく普通の ボールベアリングで、老い方もベアリングそのものです。まず音色が変わり、 次に振動が出て、最後に固着します。以下、その摩耗の音、似た音との切り分け、 そして修理の決め方です。
摩耗したアイドラーの音
最初のサインは、車速ではなくエンジン回転数に連動する一定の唸りやうなり です。停車したまま回転をゆっくり上げてみてください。音はタコメーターの 針と一緒に上下します。アイドリングでは静かな擦れ音、「砂がこすれるような 音」に聞こえることが多く、2000〜2500rpmではっきりした唸りに変わります。
2つめのサインは、温度と湿気への依存です。ベアリング内のグリスが硬いうちは 朝いちばんの音が大きく、暖まるとほとんど消え、夕方にまた戻ることがあり ます。洗車のあとや深い水たまりを通ったあとに出はじめるのも特徴的です。 残っていたグリスが水で流されるからです。
3つめは金属質の混じりです。保持器が崩れはじめると、一定の唸りがゴロゴロ 音に変わり、時折カチッという音が混じります。ここまで来たら末期で、たどり 着かないほうがよい段階です。この音の幅は症状ページ ベルト鳴きにまとめています。
アイドラーか、ベルトか、オルタネーターか
| 発生源 | 音の性質 | 見分けどころ |
|---|---|---|
| アイドラー/テンショナー | 一定の唸り、うなり、擦れ音 | 負荷に反応せず、アイドリングでも聞こえる |
| 駆動ベルト | 鋭いキュルキュル音 | エアコン作動時と始動時に大きくなる |
| オルタネーターのベアリング | 金属質を帯びたうなり | 灯火や熱線を入れると大きくなる |
| ウォーターポンプ | 低いうなり、にじみを伴うことも | プーリーにクーラントの跡が出やすい |
| デカプラープーリー | カラカラ音、アクセルオフでのバタつき | 一定回転では消える |
切り分けはそのまま出費に効きます。鳴くベルトはベルト交換で治りますが、 アイドラーの唸りはベルトを替えてもまったく治りません。オルタネーターと ウォーターポンプのどちらかという分岐は ボンネット内の唸り:オルタネーターかウォーターポンプか に、エアコンを入れたときだけ出る音は エアコンコンプレッサーのクラッチ:故障の音 にまとめています。
自分でできる点検
いちばん確実な確認はエンジンを止めた状態で行います。テンショナーを緩めて ベルトを外し、プーリーを1つずつ手で回します。健全なものは静かに、抵抗も 感じさせず長く回り続けます。傷んだものは、ゴリゴリ感、引っかかり、擦れ音、 軸と直角に揺すったときの目に見えるガタで正体を現します。
ベルトを外したくないなら、間接的な確認も使えます。エンジンをかけたまま、 手や衣服を回転部から十分に離したうえで、長いドライバーやホースの先端を アイドラーのハウジングに当て、反対側を耳に付けます。即席の聴診器になり、 1分で発生源が見つかります。使える作り方は 自作できる整備用聴診器 にまとめています。
修理の決め方
実務的なルールは単純です。ベルトがそれなりの距離を走っているなら、 アイドラーは1個ずつではなくベルトと一緒に替えます。部品代の差より、 ベルトを2回脱着する工賃のほうが大きいからです。
工場が必ずしも言わないことが2つあります。ひとつ、自動テンショナーには 摩耗インジケーターの合いマークがあり、まだ範囲内かどうか分かります。 範囲を外れたテンショナーに新品ベルトを掛ければ、また鳴きます。ふたつ、 ストレッチフィットベルトのエンジンにはテンショナー自体がなく、専用の 装着工具が要ります。ドライバーでこじって嵌めたベルトは、見た目に出なく ても最初の1分から傷んでいます。
補機の唸りは、音がほとんど嘘をつかず、1つ2つのサインで診断が決まる珍しい ケースです。ベルトが切れると何が起きるかは 鳴くベルトのまま走れるか に書いています。
工場に行く前に仮説を試したいときは、Stukアプリでアイドリング時と回転を ゆっくり上げたときの音を録音してください。アプリが録音といくつかの質問への 回答を突き合わせ、考えられる発生源を確率付きで、最初に何を見るべきかの ヒントとともに示します。