厳しい冬はどのエンジンにとっても難関です。内陸性の気候では、朝の気温がマ イナス25〜30度のまま何週間も続くことがあります。そんな夜のあとでは、健全 な車でも始動は合奏になります。何かが鳴き、何かがカチカチ言い、最初の数秒 はいつもより荒くうなる。こうした音の大半は故障ではなく、低温という物理現 象です。ただし寒さは摩耗を最もよく暴くものでもあります。夏には黙っていた 部品が、冬にまっさきに口を開きます。以下、冬のオーケストラを楽器ごとに見 ていきます。
鳴き・キュルキュル:ベルトとアイドラー
冬に最も多いのが、始動直後の数秒に出るキュルキュルという鳴きです。ファン ベルトのゴムが低温で硬くなり、摩擦で温まるまでプーリー上で滑ります。短い 鳴きはベルトの経年か張りの緩みの合図、暖機後まで続く鳴きは余力がもう残っ ていないという意味です。別の登場人物がアイドラーとテンショナーのベアリン グで、中のグリスが硬いと寒さでうなりやガラガラ音を出します。
詳しくは オルタネーターのベルト鳴きの原因 にまとめています。この音の典型的な録音は症状ページ 始動時の鳴き で聞けます。
打音・ディーゼル的なガラガラ音:硬いオイルとピストン周り
二番目に多いのが、最初の数分だけディーゼルのようにガラガラ、コツコツ言い、 その後は滑らかに回るエンジンです。厳寒でオイルの粘度は何倍にもなり、ポン プが油路へ押し出すまでに時間がかかります。オイルが行き渡らない間は、ラッ シュアジャスターがカチカチ鳴り、タイミングチェーンがすれ、冷間で広がった クリアランスの中でピストンが首を振ります。粘度の選択が適切なほど、つまり 厳冬には0Wや5Wの低粘度が向いていますが、その時間は短くなります。
正常との境目は、続く長さと変化の方向です。マイナス30度で朝に二分ほどカチ カチ言うのは説明が付きます。週ごとに荒くなる、あるいは暖まっても消えない 打音は説明が付きません。音の種類ごとの打音の全体図は エンジンの打音:音で分かる原因のすべて と 冷間時だけのエンジンの打音 にあります。自分の朝の音は 冷間時のエンジン打音 の典型例と比べてみてください。
ゴリゴリ・カチッ:セルモーターとバッテリー
三つ目のグループは、エンジンがかかる前に鳴ります。ボンネット下でカチッと 一度鳴って静まるのは、典型的なバッテリー上がりです。セルのマグネットスイ ッチは動きますが、クランキングする電流が残っていません。カチカチと連続す るのも同じことで、残った電気でスイッチが震えています。始動時のゴリゴリ音 は、セルのピニオンがフライホイールのリングギアにきちんと噛んでいないか、 リングギア自体が摩耗している合図です。寒さでグリスが硬いと、この不具合は 早く表に出ます。最初の数秒の金属音については エンジン始動時のゴリゴリ音 も参照してください。
寒さはバッテリーの容量をほぼ半分まで削るので、夏には健全に見えた一台が冬 にまっさきに音を上げます。使用四〜五年以上、クランキング中にヘッドライト が暗くなる、このどちらかがあれば、寒くなる前に点検する理由になります。
冬の早見表:音・原因・対応
| 音 | 考えられる原因 | 対応 |
|---|---|---|
| 2〜5秒の鳴き | 硬化したベルト | ベルトと張りを点検 |
| 暖機まで続く鳴き | ベルトやアイドラーの摩耗 | 今週中に工場へ |
| 1〜3分のカチカチ音 | 硬いオイル、ラッシュアジャスター | オイル粘度を確認 |
| 暖まると静まるガラガラ音 | ピストンスカート、クリアランス | 変化を観察、内視鏡 |
| 消えない鈍い打音 | メタル、シリンダー傷 | 走らせず診断 |
| クランキングしないカチッ音 | バッテリー | 充電か交換 |
| クランキング中のゴリゴリ音 | セルのピニオン、リングギア | セルを診断 |
冬ならではの補足がひとつ。走り出して数百メートルの間の音は、冷えた足回り から出ていることもあります。硬くなったゴムでサスペンションが軋み、一晩で 表面に浮いた錆でブレーキローターがシャリシャリ言います。これらは最初の数 kmで消え、エンジンとは無関係です。朝の鳴きについては 放置後のブレーキ鳴き も参考になります。
寒さのせいにしてはいけないもの
冬は多くを説明しますが、すべてではありません。暖まったエンジンでも残るブ ロック下部からの重い打音は、メタルかピストン周りです。ここでの寒さは使者 にすぎません。部品はすでに摩耗しており、乾いた冬の始動がとどめを早めるだ けです。この音が出たら、走るかレッカーかの問題はレッカーで決まりです。理 由は エンジンが打音を出しているときに運転してよいか に整理してあります。
判断の進め方
ここまでを通じた基準はひとつ、しかも無料です。続く長さと変化の方向です。 朝の音が何秒続いたか、外気温はおよそ何度かを書き留め、一か月後に比べてく ださい。冬の間ずっと同じ秒数なら物理現象、数週間ごとに長くなるなら摩耗で す。温度計が何と言おうと関係ありません。
寒さの最中ではなく前にやっておくとよいことが二つ。気候を見込んだうえで、 オイルの粘度をメーカー指定と照らし合わせること。この一行だけで、朝のカチ カチ音のかなりの部分が、通常のオイル交換の費用で片付きます。そしてバッテ リーが四年を超えているなら点検すること。秋に替えても一月に替えても値段は 同じで、違うのはレッカー代の有無だけです。
朝の合奏に不安があるなら、冷間始動をStukアプリで録音してください。屋外で、 ボンネットを開けた状態が理想です。アプリが録音と、気温や状況についてのあ なたの回答を突き合わせ、考えられる原因を割合と緊急度で示します。冬のせい にしてよいものと、工場へ持ち込むものを分けやすくなります。