ATは本来、変速が体感できないのが理想です。ドライバーはせいぜい回転数が 落ちたことで、あ、今シフトしたな、と気づく程度。それなのに背中に突き上げ が来て、床下のどこかから鈍い打音がするなら、これは調べる価値があります。 ただし、いつも慌てる必要があるわけではありません。マウントを2時間で交換 すれば治る原因もあれば、本当にATを開けるしかない原因もあります。その見分 け方を説明します。

変速のときに何が鳴っているのか

ショックと打音は別物なので、まず分けて考えると話が早くなります。ショック は体で感じる突き上げで、ATがトルクを急につかんだり離したりしている状態 です。打音は衝突の音そのもので、たいてい金属的か鈍い音として、床下や バルクヘッドのあたりから届きます。

この二つはセットで出ることが多く、つながり方もはっきりしています。ATが トルクの揺り返しをパワーユニットに伝え、ユニットがマウントの上で揺れる。 マウントがへたっていれば、ストッパーに当たって音が出ます。つまり突き上げ の発生源はATの中、打音の発生源はATの外、ということになります。だからこそ 診断はマウントから始めます。バルブボディより安く、手が届きやすく、しかも 明らかに早くへたるからです。

簡単なほうから順に点検する

  1. エンジンマウントとミッションマウント。 停車してブレーキを踏んだ まま、DとRを行き来させます。突き上げは穏やかなのにボディを通じて鋭い 打音がするなら、ほぼマウントで確定です。
  2. ATFの量と色。 焦げ臭い黒ずんだオイル、規定線より少ない量。これで 「入りが遅い・入りが荒い」の半分は説明がつきます。
  3. 冷間時と暖機後。 冷間時だけのショックは、たいてい油圧とオイルの 粘度の問題です。暖まってからも出るショックのほうが深刻です。
  4. スキャンツール。 ソレノイドや回転センサーの故障コードは、まさに 打音のように感じられる症状をよく引き起こします。

MTは似た症状でも挙動が違い、探し方の筋道も別になります。また、変速の瞬間 ではなく加速中全般で打音が聞こえるなら、症状ページの 加速時の打音から入ったほうが 役に立ちます。アクセルのオン・オフでガタンと来るドライブトレインの遊びも、 そちら側の話です。

原因の一覧表

何が鳴っているかどんなときに出るか緊急度
エンジン/ミッションマウントD・Rの入れ替え、発進、段差計画的に修理
バルブボディ、ソレノイド1→2速、2→3速で遅れとドン数週間以内に診断
クラッチの摩耗滑り、加速せずに回転だけ上がる至急、走行は非推奨
ATFの劣化暖機後のショック、回転のふらつきまずここを確認
ドライブシャフト、等速ジョイント発進時の打音、旋回時のカチカチ音ATとは別の話
ハブベアリング速度に応じたうなり、変速とは無関係専用の診断が必要

最後の2行は、変速のタイミング近くで鳴るものがすべてATのものとは限らない、 という念押しです。タイミングが重なるのは偶然のこともあります。ミッション のせいだと思っていたうなり音が、実はタイヤだったというのはよくある話です。 速度とともに大きくなるうなりが出ているなら、ハブベアリングやタイヤの 可能性を先に潰しておいてください。

修理方針はどう決まるか

上の順番そのものが判断の手順で、安く元に戻せるものから、高くて後戻りでき ないものへと、意図的に並べてあります。まずマウントとオイル、次にスキャン ツール、ATの中身は最後です。バルブボディの作業やオーバーホールの金額をこ こに書かないのは意図的で、幅が広すぎるからです。あなたの個体を診断せずに 出す数字は、正確なふりをしているだけです。

もう一つ、様子を見る時間も見込んでおいてください。ATは、修理を急ぐと、 慎重に運転しながら2週間ほどメモを取るより高くつく、数少ないユニットです。 学習機能を持つATの多くは、学習値のリセットやオイル交換のあと、すぐには なく数百キロ走るうちに挙動が変わります。だから整備士はたいてい「もう一度 診断に来てください」と言います。あれは請求を引き延ばそうとしているのでは ありません。

整備士がいつも口に出すとは限らないことが二つあります。ATFはブランドより 規格が重要だということ。摩擦調整剤が合っていないと、まさに直そうとしてい る荒い変速がそのまま出ます。どの規格を入れるのか聞いてください。もう一つ、 過走行の車でATF交換を断られたら、それはたいてい手抜きではなく慎重さです。 新しいオイルが、摩耗したクラッチをかろうじて食いつかせていた堆積物を洗い 流してしまうからです。

原因を絞り込んでいる間は、Stukアプリで変速の瞬間の音を録音しておいて ください。まず冷間時、次に暖まってから。アプリが録音とあなたの回答を 突き合わせ、どこから見るべきかを示します。マウントなのか、オイルなのか、 それともやはりATの中なのか。