ATは本来、変速が体感できないのが理想です。ドライバーはせいぜい回転数が 落ちたことで、あ、今シフトしたな、と気づく程度。それなのに背中に突き上げ が来て、床下のどこかから鈍い打音がするなら、これは調べる価値があります。 ただし、いつも慌てる必要があるわけではありません。マウントを2時間で交換 すれば治る原因もあれば、本当にATを開けるしかない原因もあります。その見分 け方を説明します。
変速のときに何が鳴っているのか
ショックと打音は別物なので、まず分けて考えると話が早くなります。ショック は体で感じる突き上げで、ATがトルクを急につかんだり離したりしている状態 です。打音は衝突の音そのもので、たいてい金属的か鈍い音として、床下や バルクヘッドのあたりから届きます。
この二つはセットで出ることが多く、つながり方もはっきりしています。ATが トルクの揺り返しをパワーユニットに伝え、ユニットがマウントの上で揺れる。 マウントがへたっていれば、ストッパーに当たって音が出ます。つまり突き上げ の発生源はATの中、打音の発生源はATの外、ということになります。だからこそ 診断はマウントから始めます。バルブボディより安く、手が届きやすく、しかも 明らかに早くへたるからです。
簡単なほうから順に点検する
- エンジンマウントとミッションマウント。 停車してブレーキを踏んだ まま、DとRを行き来させます。突き上げは穏やかなのにボディを通じて鋭い 打音がするなら、ほぼマウントで確定です。
- ATFの量と色。 焦げ臭い黒ずんだオイル、規定線より少ない量。これで 「入りが遅い・入りが荒い」の半分は説明がつきます。
- 冷間時と暖機後。 冷間時だけのショックは、たいてい油圧とオイルの 粘度の問題です。暖まってからも出るショックのほうが深刻です。
- スキャンツール。 ソレノイドや回転センサーの故障コードは、まさに 打音のように感じられる症状をよく引き起こします。
MTは似た症状でも挙動が違い、探し方の筋道も別になります。また、変速の瞬間 ではなく加速中全般で打音が聞こえるなら、症状ページの 加速時の打音から入ったほうが 役に立ちます。アクセルのオン・オフでガタンと来るドライブトレインの遊びも、 そちら側の話です。
原因の一覧表
| 何が鳴っているか | どんなときに出るか | 緊急度 |
|---|---|---|
| エンジン/ミッションマウント | D・Rの入れ替え、発進、段差 | 計画的に修理 |
| バルブボディ、ソレノイド | 1→2速、2→3速で遅れとドン | 数週間以内に診断 |
| クラッチの摩耗 | 滑り、加速せずに回転だけ上がる | 至急、走行は非推奨 |
| ATFの劣化 | 暖機後のショック、回転のふらつき | まずここを確認 |
| ドライブシャフト、等速ジョイント | 発進時の打音、旋回時のカチカチ音 | ATとは別の話 |
| ハブベアリング | 速度に応じたうなり、変速とは無関係 | 専用の診断が必要 |
最後の2行は、変速のタイミング近くで鳴るものがすべてATのものとは限らない、 という念押しです。タイミングが重なるのは偶然のこともあります。ミッション のせいだと思っていたうなり音が、実はタイヤだったというのはよくある話です。 速度とともに大きくなるうなりが出ているなら、ハブベアリングやタイヤの 可能性を先に潰しておいてください。
修理方針はどう決まるか
上の順番そのものが判断の手順で、安く元に戻せるものから、高くて後戻りでき ないものへと、意図的に並べてあります。まずマウントとオイル、次にスキャン ツール、ATの中身は最後です。バルブボディの作業やオーバーホールの金額をこ こに書かないのは意図的で、幅が広すぎるからです。あなたの個体を診断せずに 出す数字は、正確なふりをしているだけです。
もう一つ、様子を見る時間も見込んでおいてください。ATは、修理を急ぐと、 慎重に運転しながら2週間ほどメモを取るより高くつく、数少ないユニットです。 学習機能を持つATの多くは、学習値のリセットやオイル交換のあと、すぐには なく数百キロ走るうちに挙動が変わります。だから整備士はたいてい「もう一度 診断に来てください」と言います。あれは請求を引き延ばそうとしているのでは ありません。
整備士がいつも口に出すとは限らないことが二つあります。ATFはブランドより 規格が重要だということ。摩擦調整剤が合っていないと、まさに直そうとしてい る荒い変速がそのまま出ます。どの規格を入れるのか聞いてください。もう一つ、 過走行の車でATF交換を断られたら、それはたいてい手抜きではなく慎重さです。 新しいオイルが、摩耗したクラッチをかろうじて食いつかせていた堆積物を洗い 流してしまうからです。
原因を絞り込んでいる間は、Stukアプリで変速の瞬間の音を録音しておいて ください。まず冷間時、次に暖まってから。アプリが録音とあなたの回答を 突き合わせ、どこから見るべきかを示します。マウントなのか、オイルなのか、 それともやはりATの中なのか。