タイミングチェーンは動弁系を駆動する部品です。クランクシャフトと カムシャフトをつなぎ、バルブをきっちり正しいタイミングで開かせます。 ベルトと違ってチェーンは金属で、オイルの中を走るので、 摩耗したときの音も独特です。キュルキュルではなく、 特徴的なシャラシャラ音になります。これを耳で分かるようになると 二重に得をします。チェーン駆動の摩耗はゆっくり進むので、 音に気づけば緊急修理ではなく落ち着いた修理の余裕ができるからです。
どんな音か
基本はシャラシャラという金属音です。エンジンの中で小銭を ざらざら流しているような、あるいは古いミシンが回っているような音。 出どころはエンジンの前側(チェーンのある側)で、回転に追従し、 空ぶかしすると速くなります。ボンネットを開けてアイドリングで 聞くといちばんよく分かります。
摩耗が進むと、シャラシャラに細かい特徴が加わります。 個々のカチッという音が混じり、音が不揃いでざらついてきて、 アクセルを離した瞬間にはたるんだ側のチェーンがガイドを叩く 短い金属音が出ます。かなり進むと、冷間ではっきりしたガラガラ、 カタカタになります。
聞くときは静かな場所で、タイミング駆動側の前輪のそばにしゃがむか、 開けたボンネットの下に身を寄せます。役に立つのは温度による 比較です。朝の冷間始動と夜の暖まったアイドリングをスマホで 録っておく。健康なチェーン駆動なら二つの録音はほぼ同じですが、 摩耗していると違いがすぐ聞き取れます。
動弁系のカチカチ音と混同しないでください。あちらはもっと乾いた リズミカルな音で、内訳は症状ページの エンジンのカチカチ音にあります。
正常な範囲
冷間始動の最初の1〜2秒だけの短いシャラシャラは、多くのエンジンで 許容範囲です。理由は油圧テンショナーにあります。エンジンオイルの 圧力でチェーンを張る装置です。一晩置くとオイルが一部抜けてしまい、 圧力が立つまでチェーンは少したるんだまま回ります。
境界線は3つの問いで決まります。数秒で消える — 許容範囲。 5秒以上続いて毎回の始動で出る — テンショナーかチェーンの摩耗で、 テンショナー側の症状は別記事にまとめてあります。暖機後も含めて 常時鳴っている — すぐ工場へ。冷間始動時の音の全体像は症状ページの 冷間時のエンジンの打音にあります。
なぜ鳴り始めるのか
チェーンはゴムのように伸びるわけではありません。何十というリンクの 摩耗で長くなります。ピンとブッシュが一つずつ摩耗し、 全長が数ミリ増える。これだけでテンショナーはストロークの端まで 行き、チェーンが暴れてガイドを削り始めます。
進行を早める要因がいくつかあります。
- 古いオイル、交換をさぼったオイル — リンクはエンジンと同じ オイルで潤滑されていて、混ざった摩耗粉がいちばん速くチェーンを削ります
- 摩耗した油圧テンショナー — 圧力を保持できず、チェーンがたるみます
- 摩耗したガイドとシュー — 樹脂が削れて動く量が増えます
- 短距離と冷間始動の繰り返し — 油圧が立つ前の時間が積み重なります
チェーンの寿命はおおむね15万〜25万キロですが、ばらつきは非常に 大きいです。オイルに敏感なエンジンでは9万キロで伸びていることも ありますし、きちんと整備すれば30万キロ持つこともあります。 実用的な目安は単純で、オイル交換の間隔が短いほど(暑くて埃っぽい 条件なら7000〜1万キロ)、チェーンは長く静かでいてくれます。
カムをベルトで駆動するエンジンでは摩耗の現れ方がまったく違います。 タイミングベルトが劣化したサインを ご覧ください。
シャラシャラから歯飛びまでの段階
| 段階 | 聞こえる音 | やるべきこと |
|---|---|---|
| 初期 | 冷間始動で1〜2秒のシャラシャラ | 様子見、オイルを期限どおりに交換 |
| 中期 | 5〜10秒のシャラシャラ、アイドリングでも時々 | 数週間のうちに診断 |
| 進行 | 常時シャラシャラ、カチカチ、アクセルを戻すと金属音 | 伸び量を測定、交換の準備 |
| 危険 | 冷間でガラガラ、カム角のコード、出力低下 | すぐ工場へ。できれば自走以外で |
後半の段階では他のサインも加わります。相関コード(P0016、P0017 — ECUがクランクとカムのずれを検出)でのチェックランプ点灯、 始動性の悪化、出力低下。詳しい内訳は タイミングチェーンが伸びたサインにあります。
修理をどう決めるか
いちばんのリスクは、チェーンがスプロケットの歯を飛ばすことです。 バルブタイミングがずれ、最近のエンジンではたいていバルブが ピストンに当たります。修理は「チェーン交換」からエンジン半分の オーバーホールに化けます。もうひとつのシナリオは、摩耗したガイドが 砕けてその破片がチェーンの下に入ることです。
交換の前に、摩耗を客観的に確かめられます。多くの工場は分解せずに 伸びを評価します。診断機でカムの相関角から読むか、点検穴から テンショナーのプランジャー位置を見るか。この測定は普通の診断と 同じくらいの費用で、いちばんもったいない間違い — 実は補機の アイドラーが鳴っていたのに念のためチェーンを換えてしまう — を 防いでくれます。
交換するならチェーン、テンショナー、ガイド、スプロケットの 一式でやるべきです。摩耗したガイドに新品のチェーンを入れても また鳴り出します。エンジン前側を開けているあいだは、 ウォーターポンプもすぐそこにあることが多く、その劣化のサインは ウォーターポンプが弱ってきたサインに あります。同じ作業に含まれるか聞いておけば、同じ分解を2回 やらずに済みます。
聞こえているのが本当にチェーンなのか自信がないときは、 ボンネットを開けてStukアプリで録音してください。録音を典型的な 故障音と突き合わせ、考えられる原因を緊急度つきで表示します。