タイミングベルトのアイドラーは、動弁系駆動の補助的な車輪です。 テンショナープーリーがベルトの張力を保ち、アイドラー(ガイドプーリー) がベルトの経路を決めます。それぞれの内部には、寿命ぶんのグリスが 封入された転がり軸受が入っています。タイミング駆動系に手を入れるべき だという最初の音の合図は、ベルト本体ではなくこのアイドラーから出る ことがほとんどです。そしてその合図は無視できません。

なぜアイドラーはベルトより先に鳴るのか

ゴムのベルトは静かに劣化します。ひび割れも擦れもほとんど音を出しません。 アイドラーは違います。クランク相当かそれ以上の速さで回る金属の軸受 です。グリスが劣化して乾き、軌道面に点状の傷ができると、軸受は一回転 ごとに自己申告をはじめます。

テンショナープーリーには余分な負荷がかかります。ただ回っているだけ でなく、ばねや油圧の力でベルトを常に押しているからです。その軸受は 最も過酷な条件で働き、たいてい最初にだめになります。アイドラーの寿命は ベルトの交換時期に合わせて設計されています。だからこそキットで交換 するのです。ベルト側の話は タイミングベルト劣化のサイン にあります。

音の変化:シャリシャリからガリガリまで

摩耗したアイドラーの音の進み方は、かなり予測できます。

  1. 冷間時の軽いシャリシャリ音。 始動から数分だけ聞こえ、暖機 すると消えます。初期段階で、まだ時間の余裕があります。
  2. 笛のような音、チリチリ音。 回転とともに高くなる細い音で、 この段階になると暖機後にも出ます。ベルトのすべりに似ていますが、 ヘッドライトやヒーターに反応しないのが違いです。比較は症状ページ 始動時のキュルキュル音 にあります。
  3. うなり、ゴロゴロ音。 軌道面が崩れ、どの回転域でも軸受が 唸ります。
  4. ガリガリ、ガラガラ。 軸受の保持器が壊れかけています。焼き付き まで運転時間で数時間の世界です。

別の警告サインとして、カバーの奥からのリズミカルなカチカチ音が あります。位置がずれたアイドラーがベルトの端を削っている音です。 動弁系やラッシュアジャスターも似た音を出すので、症状ページ エンジンのカチカチ音 も参照してください。

タイミング系と補機系の切り分け

やっかいなのは、タイミング系のアイドラーが樹脂カバーの奥に隠れている 一方で、そのすぐ隣で補機ベルトが自分のアイドラー、オルタネーター、 ウォーターポンプを回していることです。音は重なります。切り分けの手は 三つ。

ひとつめは位置。タイミング系の音はカバーの奥から出て、樹脂で少し くぐもって聞こえます。ふたつめは負荷試験。ヘッドライトとエアコンを 入れるとオルタネーターやコンプレッサーの音は変わりますが、タイミング系 のアイドラーは変わりません。みっつめは工場での方法で、補機ベルトを 外して短時間だけ回すこと。それでも音が残るなら、音源はタイミング カバーの奥です。

補機系の似た音は別にまとめてあります。オルタネーターのうなりは オルタネーターのベアリング摩耗のサイン に、補機系のアイドラーは アイドラープーリー摩耗のサイン にあります。

まとめ表

聞こえるとき想定される段階
シャリシャリ(冷間)始動直後の数分グリスの初期劣化
笛、チリチリ冷間でも暖機後でも軸受の中程度の摩耗
うなり、ゴロゴロ常時。回転とともに増大軌道面の崩壊
ガリガリ、ガラガラ常時破損寸前
リズミカルなカチカチ負荷時アイドラーの位置ずれ、ベルトの損傷

先延ばしの危険と作業の決め方

アイドラーが焼き付けば、その場で止まるかタイミングベルトが切れます。 最近のエンジンの多くでは、ベルト切れはバルブとピストンの衝突を意味 します。シリンダーヘッドを降ろす修理になり、タイミング系の整備の 何倍もかかります。焼き付きの間接的な前兆は、軸受から押し出された グリスがカバーの内側に付着していることです。

工賃はまるごと駆動系のばらしにかかるので、合理的な作業は常にフル キットです。ベルト、テンショナー、アイドラー、そしてタイミングベルトが ウォーターポンプを駆動している車ならポンプも。アイドラー1個だけの 交換は工賃が同じで、しかも新品プーリーの上に古いベルトを残すことに なります。それは賭けです。

聞いておきたい質問が二つ。新しいテンショナーの張力を、エンジンを手で 2回転させてから再確認してくれるか——最も省略されやすい工程です。 そして位置ずれの原因を突き止めたか。斜めに摩耗したアイドラーは、 たいてい裏側のブラケットやシールに問題があったからで、同じ場所に 新品を付ければ同じ減り方をします。

エンジン前側から笛のような音やシャリシャリ音が聞こえて、それが アイドラーなのかオルタネーターなのかポンプなのかわからないときは、 Stukアプリで音を録ってみてください。典型的な故障音と照合し、 考えられる音源と、どれくらい急いで工場へ行くべきかを示します。