ベルトを換えれば鳴きの話は終わるはずなのに、工場から帰った翌日や二日後 にまた鳴き出す車は珍しくありません。工場を出たその場で鳴くこともありま す。これは必ずしも作業が雑だったという話ではなく、原因は三つのグループ に分かれます。新品ベルトそのもの、取り付けのミス、そして交換前から本当 の音源だった部品です。順番に見ていきます。

どこまでが正常か

新品のリブ付きファンベルト(補機ベルト)は、リブがプーリーに馴染むまで 少し時間が要ります。最初の数十キロで軽い擦れ音がするのは正常の範囲です。 ただし甲高い鳴きはいつでも異常です。正しく組まれた新品ベルトの補機駆動 系は、冷間でもエアコンを入れても静かなものです。聞こえているのが鳴きな ら、どんな音でどれと紛らわしいかは症状ページ ベルトの鳴きにまとめてあります。待って様子 を見るのではなく、原因を探す場面です。

取り付けミス — もっとも多い原因

ミス出方対処
張力不足始動時、エアコン、ハンドル操作など負荷時に鳴くメーカー規定値まで張る
張りすぎうなり音、補機のベアリングが早く傷む規定値まで緩める
ベルトが溝に入っていない交換直後から鳴く、プーリー上でベルトがずれている掛け直す
サイズや形状違いテンショナーが可動端、ベルトが緩いか突っ張るカタログ品番で部品を選定
プーリーの油分を落としていない一日二日で鳴きが戻る漏れを直し、プーリーを清掃、ベルトを再交換
へたったテンショナーをそのまま流用断続的な鳴き、運転中にテンショナープーリーが暴れるテンショナーを交換

二行だけ補足します。一つ目は目分量の張力です。手動調整の車では、ゲージ を使わない作業で緩すぎ・張りすぎのどちらにも簡単に振れます。オートテン ショナーもスプリングが弱っていれば、ベルトが完璧でも規定の張力は出ませ ん。二つ目は油汚れです。前のベルトを駄目にしたのがオイルや冷却水のにじ みなら、汚れたプーリーに新品を掛けても数日で同じ道をたどります。

部品そのものが原因のとき

頻度は下がりますが、取り付けは正しいのに新品ベルトが鳴くこともあります。 たいていは素性の不明な安価な部品です。ゴムが硬くてプーリーに追従せず、 リブの成形精度も甘く、初日から音が出ます。ブランド品のEPDMベルトではほ ぼ起きません。もう一つは長さやリブ本数が違う部品です。形の上では付くの に、テンショナーが可動域の端で止まってしまいます。判別はカタログ品番と VINの照合で、別バージョンを試すより速くて安上がりです。

そもそもベルトが原因でなかった場合

いちばん割に合わないパターンです。鳴いていたのはベルトではなく、交換し ても直りようがなかったというケース。似た音はオルタネーターのベアリング、 ガイドアイドラー、ウォーターポンプ、そしてデカップラープーリー(ベルト の脈動を吸収するオルタネータープーリーのワンウェイクラッチ。摩耗すると 音を出しガタつきます)からも出ます。耳でもある程度は分けられます。ベル トの鳴きは断続的で甲高く、ベアリングは回転数とともに高くなる連続したう なり音です。うなり寄りの音で、ウォーターポンププーリー付近に冷却水の跡 があるなら、まずウォーターポンプを疑うのが順序です。

十分で原因を絞る手順

  1. いつ鳴くかを控える。 冷間の最初の数秒だけなら張力が限界か湿気、 負荷時(エアコン、ハンドル操作)なら張力不足、常時なら芯ズレ・サイズ ・別部品です。朝だけのパターンは 始動時の鳴きにまとめてあります。
  2. ベルトの掛かりを見る。 ライトで全プーリーを一周確認します。ベル トは各プーリーの全ての溝に収まっている必要があり、端のリブに乗り上げ ていてはいけません。
  3. 張力を判断する。 手動調整なら長いスパンを指で押して概ね5〜10ミリ のたわみ。オートテンショナーには可動範囲のマークがあり、指針が端に寄 っていてはいけません。
  4. アイドラーを手で回す。 エンジンを止め、ベルトを外すか緩めた状態 で、各アイドラーとプーリーが引っ掛かり・ガタ・ザラつきなく滑らかに回 ることを確認します。
  5. プーリーの清浄度を確認する。 溝の油膜は指で触れば分かります。理 屈をこねるより、鳴きの再発をよほどよく説明してくれます。
  6. 古いベルトと比べる。 捨てていなければ並べてみてください。長さが 一センチ以上違う、リブ本数が違うなら、それがそのまま答えです。

もう一つの手掛かりは、音がどこに居るかです。滑りによる鳴きはエンジンル ーム全体に広がりますが、アイドラーやベアリングのうなりは局所的です。整 備用の聴診器、あるいは長いドライバーをハウジングの固定部に注意して当て れば、数分で音源に行き当たります。

修理はどう決まるか

工場で交換したのなら、まずその工場に戻るところからです。張力不足や芯ズ レの手直しは通常の保証案件で、まともな工場なら無償で片付けます。保証と 新規作業の境目は、取り付けミスと別部品の境目とぴったり同じです。だから こそ、話をしに行く前の十分の音源特定が効いてきます。

整備士が必ずしも言わないことが二つあります。テンショナーとアイドラーは ベルトと同程度の寿命を持つ消耗品で、ベルトを外している状態なら同時交換 の追加工賃はほとんど掛かりません。ベルトだけの見積もりは、また戻ってく る見積もりです。そしてベルトが汚染されていたなら、先に漏れを止めること。 漏れを直さずに新品を掛けるのは、同じ出費を二度することになります。

見立てを持って工場に行きたいなら、Stukアプリで音を録っておいてください。 録音を典型的なケースと照合し、いつ鳴くかという回答も加味して、考えられ る原因を緊急度付きで示します。保証の話か新しい作業かを切り分けるのが楽 になります。