ラッシュアジャスターは、油圧を使って動弁系のすき間をゼロに詰めておく 小さなプランジャーです。おかげで人の手でバルブクリアランスを調整せずに 済んでいます。これが圧力を保てなくなるとすき間が戻り、フォロワーが カムの山を叩き始めます。外からは、エンジン上部からの速い金属的な カチカチ音として聞こえます。そこでいちばんよく聞かれるのが、その まま走るとどれくらいの速さでエンジンが壊れるのか、という問いです。
一回転ごとに中で起きていること
健全な動弁系では、部品どうしは衝撃なしに触れ合っています。プランジャー が熱膨張を吸収し、接触を保ち続けるからです。ラッシュアジャスターの中に コンマ数ミリのすき間ができた瞬間から、カムの山はフォロワーをなめらかに 押すのではなく、叩くようになります。2,000回転なら、バルブ一本あたり 毎分およそ千回の打撃です。
大事なのは、打撃がバルブを開けるときだけでなく、閉じて着座するときにも 起きることです。圧力を失ったラッシュアジャスターはすき間を詰めきれず、 バルブは設計より強く閉じます。ヘッドの中でいちばん熱い場所で働く エキゾーストバルブでは、シートを通した放熱も悪くなります。
金属はこの打撃に長く耐えますが、永遠ではありません。まずカム山の薄い 硬化層が壊れ、次に摩耗が奥へ進み、山の形そのものが変わります。ラッシュ アジャスターの当たり面とバルブも一緒に傷みます。修理の重さが、音の 出たまま走った距離に直接左右されるのは、まさにこのためです。
三つの筋道と行き先
| 音の出方 | 考えられる原因 | 走り続けると |
|---|---|---|
| 冷間のみ、10〜30秒で消える | 硬いオイル、充填が遅い | 摩耗はごくわずか、経過観察 |
| 冷間のみ、2〜5分で消える | 通路の汚れ、プランジャーの固着 | カム山がゆっくり摩耗 |
| 暖まっても常に鳴る | 部品の摩耗、または油圧不足 | 数週間でカム山が終わる |
| 音に加えて出力低下 | カム山の形状変化、バルブの当たり | ヘッドの分解作業へ |
| 音に加えて油圧警告灯 | 潤滑不足 | 走らずにエンジンを止める |
最後の行だけは、時計が週ではなく分で進みます。油圧警告を伴う音なら、 傷んでいるのはもうラッシュアジャスターではなく、クランクシャフトの メタルです。判断の目安は エンジンから打音がするまま走れるかも 参考にしてください。
修理にお金をかける前に確かめること
新しいラッシュアジャスターを見込む前に、軽い原因を潰しておくのが筋 です。ひとつめはオイル。季節に対して硬すぎる、あるいは交換時期を 過ぎていると、細い通路で圧力が立ちません。オイルとフィルターの交換は、 いちばん軽い診断の一手です。
ふたつめは、詰まったオイル通路とストレーナー。ここではエンジン内部の 洗浄が効くことがあります。三つめが油圧そのもの。機械式のゲージで 測ります。規定を下回っているなら、圧力が低い理由を突き止めるまで ラッシュアジャスターを替えても意味がありません。この順番こそが、診断と 当て推量を分けます。圧力を測らずにラッシュアジャスターの見積もりを 出す工場は、答えではなく部品を売っています。
作業に入る前に知っておきたいことがもうひとつ。多くのエンジンでは ラッシュアジャスターはカムシャフトの下にあるので、作業にはカムの脱着が 含まれ、そのあとバルブタイミングを合わせ直すことになります。だから 出費の大半を占めるのは部品ではなく工賃です。そしてだからこそ、開けた ついでに鳴っている一本だけでなく全数を交換する価値があります。
ラッシュアジャスターの音を、エンジン上部のほかの音と区別するには、 症状ページ エンジンのカチカチ音の説明が役立ち ます。インジェクター、ヘッドカバー、エキゾーストマニホールドには、 それぞれ固有の顔つきがあります。カムフェーザーとの違いは 冷間始動時のカムフェーザーのガラガラ音を、 バルブ側の傷みは 焼けたバルブを音で見分けるを どうぞ。
待つことの代償
「ラッシュアジャスターの交換」と「シリンダーヘッドのオーバーホール」の 差が、先延ばしの代償です。そしてそれは小さくありません。前者は範囲の はっきりした作業です。カム山が終われば、そこにカムシャフトが、場合に よってはヘッドそのものが加わります。しかもその頃にはエンジンは力を 失っています。削れた山はバルブを最後まで開けられないからです。
冷間時だけ鳴っていて、それが正常の範囲かどうか知りたいときは、始動 直後と、5分ほど回したあとの二回、Stukアプリで録音してください。アプリ は二つの録音と、エンジンや走行距離についてのあなたの回答を突き合わせ、 考えられる原因を確率つきで示します。