この症状は音がとても分かりやすいのが特徴です。クラッチペダルを踏み込む と、ボンネットの下か足元の床下から、乾いたカチッ、あるいはコツンという 音がします。踏むときと戻すときで二回鳴ることもあります。走りは普通、 ギアも入る、クラッチも滑らない。マニュアルのフォード・フォーカスでは かなり典型的なケースで、原因の多くはクラッチ本体ではなく、クラッチを 切るためのレリーズ機構にあります。
機構の仕組みと、すり減る場所
クラッチを切るとき、ペダルの力はフォークに伝わります。フォークは レリーズベアリングを押す「てこ」で、ベアリングがクラッチカバーの ダイヤフラムスプリングの指を押し込みます。フォークはベルハウジングの 内側でボールスタッド(または樹脂の受け)を支点に動き、発進のたびに かなりの荷重を受けます。
摩耗する場所は三つあります。一つ目はフォークの支点。樹脂または金属の 受けがすり減ってガタが出ると、ペダルを操作するたびにフォークが跳ねます。 二つ目はフォークとレリーズベアリングの当たり面で、ここにもすき間が できます。三つ目はレリーズベアリング自体で、ペダルを踏んだ状態で音を 出し始めます。この系統の音は クラッチを踏むとパキパキ鳴る でも扱っています。
ほかの音との切り分け
| 手がかり | クラッチのレリーズ機構 | ほかの部品 |
|---|---|---|
| ペダルとの関係 | 明確:ペダル操作時だけ | なし |
| 車速との関係 | なし | 足まわりのうなり・打音は速度で強まる |
| 路面との関係 | なし | 足まわりは段差に反応する |
| ペダルを踏んだままの音 | シャーという音=レリーズベアリング | — |
| ニュートラル・ペダルを離した状態 | ウーンといううなり=インプットシャフトのベアリング | — |
自宅でできる簡単なテストがあります。エンジンをかけてニュートラルにし、 勢いをつけず、ゆっくりとクラッチを床まで踏んで戻します。踏み切る手前と 戻り始めでカチッと鳴るなら、それが摩耗したフォーク支点の「筆跡」です。 床下から出る雑多な音の全体像は症状ページ 車の下からのガタガタ音 に、ギア操作時の音については ギアを入れるときのゴリゴリ音 にまとめてあります。
工場では何をするか
まず単純な可能性から潰します。レリーズ機構の点検です。フォーカスの クラッチはワイヤー式と油圧式があり、前者は調整と給脂で解決することが あります。後者ならマスターシリンダーとレリーズシリンダーを確認します。 次にミッションマウントとエンジンマウント。へたったマウントは荷重が 変わる瞬間に似た打音を出します (エンジンマウント劣化のサイン)。 アクセルのオン・オフで出る打音との違いは アクセルオン・オフでのドライブトレインの打音 を参照してください。
そこまでが問題なければ、ミッションを降ろします。そして本題はここから です。せっかく中が開いたのだから、ディスク、カバー、レリーズベアリング の摩耗も見ておく意味があります。
修理をどう決めるか
判断の基準は単純で、部品ではなく「アクセス」の話です。ミッションを一度 降ろした時点で、その工賃はもう払っています。キットで交換すれば今回は 高くつきますが、二、三年で見れば安くなります。二度目の脱着は一度目と 同じ費用がかかるからです。ですから作業前に答えを出すべき問いは、 クラッチ本体にあとどれだけ残っているか、これに尽きます。
整備士には事前に全体像を伝えると話が早く進みます。音が出始めた時期、 ペダルの感触に変化があったか、坂を登った後にクラッチの焼けた匂いがしないか、 高いギアで強く加速したときに回転だけ上がることはないか。フォーク支点の 打音そのものはクラッチの摩耗を意味しませんが、こうした症状が重なって いるなら、分解する前からキット交換という結論はほぼ見えています。
整備士が必ずしも口に出さないことが二つ。デュアルマスフライホイールが 付いている車なら、その状態はミッションを降ろした状態で判定され、これ一つ で見積りが倍になり得ます。目視での判断ではなく、遊び量を実測してもらって ください。もう一つ、新品クラッチは最初の数百キロをやさしく走らせて なじませたいところです。牽引や急発進は避けてください。
別の音と混同していないかも確かめる価値があります。走行中に聞こえ、 ペダルとは無関係のうなり音なら、それは足まわりかタイヤです。ハブ ベアリングのうなりについては ハブベアリングがうなったまま走れるか を見てください。
打音がまだたまにしか出ず、ミッションを降ろすべきか迷っているなら、 エンジンをかけたままゆっくりペダルを踏みながらStukアプリで録音して みてください。アプリは録音といくつかの質問への回答を突き合わせて、 考えられる原因を確率つきで示します。整備士に具体的な質問を持ち込むには 十分な材料になります。