チェーン式のタイミング駆動は「一生もの」と言われます。だからこそ症状が 見逃されやすい。チェーンは一日で切れるものではありません。少しずつ 伸び、テンショナーは押し出し量を増やし、ガイドが削れ、エンジンの音が 段階を追ってゆっくり変わっていきます。アルメーラやキャシュカイに 載った量販型の日産エンジンでは、この摩耗の進み方に十分な特徴があり、 自分の耳でも追えます。どう進行するのか、いつが工場に行くタイミングなのかを 見ていきます。

段階ごとの音の変化

伸びはいくつかの段階を踏み、それぞれ音が違います。

  1. 第一段階。 冷間始動直後に一、二秒だけシャラシャラという音。 テンショナーがオイルで満たされるまでの短い時間です。暖まれば無音。
  2. 第二段階。 音が数秒に伸び、たまの朝ではなくほぼ毎回出るように なります。長い信号待ちのあと、アイドリングで聞こえることも。
  3. 第三段階。 暖まったエンジンでも金属的なシャラシャラが残り、 とくにアイドリングで顕著になり、空吹かしで音が変わります。
  4. 第四段階。 音に挙動が加わります。アイドリングが不安定、力が 出ない、カム角センサー系の故障コード、始動性の悪化。

第一、第二段階なら落ち着いて修理を計画できます。第三、第四は 先送りしない理由になります。この手の音の全体像は症状ページ エンジンのカチカチ音 に、張りの確認方法は 音でタイミングチェーンの張りを確認する に、そのまま走り続けるリスクは チェーンが伸びたまま走れるか にまとめてあります。

摩耗を早めるもの

チェーンは走行距離よりも使用条件で摩耗します。最大の要因はオイルです。 チェーンの各リンクを潤滑するのも、テンショナーを動かすのも同じオイル だからです。硬く劣化したオイルでは、始動のたびに駆動系が数秒間ほぼ ドライで回り、テンショナーの圧力の立ち上がりも遅くなります。

次に効くのが、市街地の短距離走行(走行距離あたりの冷間始動が多い)、 渋滞や粉じんを考慮せずに取扱説明書どおりに引き延ばした交換間隔、 そしてオイル量の不足です。量が少ないと、コーナリング中や加速中に ストレーナーが空気を吸います。

診断で確認すること

手順見るものわかること
診断機カム角・クランク角センサー系のコードタイミングのずれの間接的な証拠
オイルの点検量、状態、交換時期仮説の半分を一気に消せる
ヘッドカバーを外すチェーンのたるみ、ガイドの状態摩耗の直接評価
テンショナーの位置押し出し量をどれだけ使っているか残り寿命の目安
聴診音が最大になる位置駆動系と他部品の切り分け

重要な注意点があります。カムシャフトポジションアクチュエーターも 冷間始動時に似た短いカラカラ音を出し、耳だけで一発で見分けられるとは 限りません。 冷間時のカムシャフトポジションアクチュエーターのカラカラ音冷間時の打音: チェーンかカム位相機構か を参照してください。もうひとつ混同されやすいのは、実際には下、 つまり駆動系から来ている音です。

修理をどう決めるか

駆動系はキットで交換します。チェーン、テンショナー、ガイド、 ダンパー。たいていカバーのガスケットとシール類も一緒です。キットを ケチらないでください。古いテンショナーに新品チェーンを組むと伸びが 目に見えて早く、またエンジンを開けることになります。そしてその分解 作業こそが工賃の大部分で、部品代ではありません。

作業に同意する前に聞いておくとよいことが二つ。あなたのエンジンで ウォーターポンプがタイミング駆動側にあるかどうか。あるなら同時交換 です。後から手を出せば同じ作業をもう一度払うことになります。そして 診断機で測ったカム位相のずれが何度なのか。「様子を見る」と「交換する」を 分けるのは、音ではなくこの数字です。

整備士が必ずしも言わないこともあります。修理後のエンジンは新しい オイルと早めの初回交換を求めますし、最初のチェーンを伸ばした オイル管理そのものを変えなければ、新品も同じ道をたどります。

音が本当にどこから来ているのかは、別に確認してもらってください。 エンジンルーム前方のヒューという音やうなりはチェーンとは無関係で、 そちらは オルタネーターのベルト鳴きの原因 で扱っています。

自分のケースがどの段階なのかわからないときは、Stukアプリで冷間始動と 暖機後の二回、音を録音してください。アプリは録音とあなたの回答を 比べ、考えられる原因を確率つきで示します。時間の余裕があるのかを 判断するのに向いています。