耳で聞こえるだけでなく足の裏に伝わってくる打音は、車の音のなかでもとりわけ 落ち着かないものです。ブレーキは、新しい音を聞きたくない最後のシステムです から。とはいえ、ペダルに返ってくる感触が必ず故障を意味するわけではありま せん。原因は根本的に異なる三系統に分かれます。正常なアンチロックブレーキの 作動、ブレーキ機構内部のガタ、そしてブレーキ時の荷重で表面化するだけの 足回りの摩耗です。見分けの鍵は、音がいつ出るかにあります。
三つの発生源
一つめはABS。急制動時や凍結路では、システムが回路内の油圧を細かく制御し はじめ、ペダルがラチェットのようなガガガという感触で足裏を突き上げます。 これは正常で、街中の穏やかなブレーキでは起こりません。
二つめはブレーキ機構内部のガタ。ブレーキパッドはわずかなすきまを持って ガイドに収まっています。押さえのシムが摩耗し、当たり面が打たれて広がって いると、ローターに最初に触れた瞬間にパッドが1ミリ動いてストッパーに当たり ます。だから踏み始めに一回、ペダルを離す瞬間にもう一回カチッと鳴る。詳細は ブレーキ時の打音:パッドかキャリパーか にあります。
三つめは足回りとステアリング。ブレーキをかけると荷重が前に移り、ボール ジョイント、アームブッシュ、タイロッドエンドへのかかり方が変わるので、 ブレーキ自体は健全なのに摩耗した部品がその瞬間だけ鳴ります。荷重時の打音の 全体像は症状ページ 足回りからの打音にまとめています。
自分のケースを特定する
| 打音が出る場面 | 考えられる発生源 |
|---|---|
| 急制動時だけ、ペダルが細かく震える | ABSの作動、正常 |
| 踏み始めと踏み終わりに一回ずつカチッ | キャリパー内のパッドのガタ |
| 段差でブレーキを踏んだときの打音 | 足回り:リンク類、ブッシュ |
| バックしながらブレーキを踏んだときの打音 | キャリパーのスライドピン、パッド |
| リズミカルな脈動、速度とともに周期が速くなる | ローターの歪み。打音ではない |
| ペダルが沈み込みながら打音 | 至急ブレーキ回路の点検が必要 |
先延ばしにできないのは最後の行だけです。ペダルが柔らかくなった、沈む、もう 一度踏まないと効かない。これはもう音の話ではなく圧力の話で、賢明な判断は 走行をやめることです。
確認の順序
- ABSを除外する。 乾いた舗装で40km/hから穏やかに停止します。脈動が なく、打音が急制動時だけだったのなら、それはシステムの正常な仕事でした。
- バックテスト。 数メートル後退してブレーキを踏みます。ガイド部の パッドのガタは逆向きの打音を出します。パッドが反対側へ動くので、音が はっきりします。
- ブレーキと足回りを切り分ける。 平らな路面でのブレーキと、段差での ブレーキを比べます。サスペンションが動いたときにだけ打音が出るなら、 ブレーキ機構は関係ありません。
- ステアリングを確認する。 ハンドルの振れを伴う打音はローターとハブを 示します。ホイールまわりの音の切り分けは うなり音:ハブベアリングかタイヤか、 ジャダーそのものは ブレーキ時のジャダー で扱っています。
- 機構を目視する。 ホイールを外し、手でパッドを揺すってみます。目立つ 動きや打たれて広がったストッパーはすぐに見て取れます。
整備したばかりの車での打音は別扱いです。新品パッドのあとには正常とされる 音がありますし、放置後の朝の鳴きには 放置後のブレーキ鳴き という別の説明があります。
緊急度と修理の決め方
緊急度は見つかったものによります。パッドのガタは次回の定期入庫でかまい ません。ボールジョイントの摩耗は一週間以内の話です。このジョイントは サスペンションのジオメトリーの中でタイヤを支えており、破損すれば車は コントロールを失います。沈むペダルは今日の話です。
工場で二つ確認したいことがあります。一つ、キャリパーのスライドピンを 「ちらっと見る」のではなく、抜いて清掃しグリスを塗り直してもらうこと。 機構側の打音の多くはこれで治ります。二つ、パッド交換時にシムとスプリング の取付キットも新品を入れてもらうこと。そもそもパッドを動かさないための部品 だからです。
キャリパーが鳴っているのかアームが鳴っているのかを耳だけで判断するのは、 経験のあるドライバーでも難しいものです。音はボディを伝わってくる過程で発生 源の情報を失います。数回の制動をStukアプリで録音し、短い質問に答えれば、 考えられる原因が確率つきのリストで返ってきます。